量子マテリアルで
未来をデザインする

貴社の事業内容を教えてください。
TopoLogicは、東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授が研究されている「トポロジカル磁性体」という独自の磁性材料を基盤に、半導体デバイスや電子デバイスの開発を行う会社です。2021年に設立されました。この材料の特性を活かし、特に消費電力を大幅に低減できる半導体メモリや、非常に高速で熱現象を捉えることができるセンサなどの開発に注力しています。研究開発にとどまらず、実際の産業応用・社会実装まで一貫して取り組んでいる点が特徴です。
会社の設立経緯を教えてください。
TopoLogicのファウンダーは中辻先生です。中辻先生は、トポロジカル磁性体の研究を進める中で、これは半導体業界を一新し得る材料だという強い信念を持つようになりました。そこでまず、半導体企業に材料の論文などを持ち込みましたが、「材料だけでは先に進めない」という反応が多く、社会実装をどのように進めるべきか悩まれていました。ちょうどその頃、中辻先生のご親戚で、当時楽天のCIOを務めていた北川拓也さんに相談したところ、元ACSL社長の太田裕朗さんを紹介されました。議論を重ねる中で、産業が実際に必要とするレベルまで踏み込んで開発し、社会実装まで担わなければならないという認識に至りました。ただし、それを大学の物理学研究者だけで進めるのは現実的に難しい。コンソーシアムを組むという選択肢もありましたが、大学の先生を集めるには時間がかかり、体制も複雑になります。それであれば、自分たちで法人を設立した方が自由度高くコントロールできると判断し、2021年に会社を設立しました。これがTopoLogicの始まりです。

佐藤社長のご経歴と起業にいたった経緯をお聞かせください。
私のこれまでの経歴は、TopoLogicの技術分野とはほとんど直接の関係がありません。もともと小学生の頃は宇宙飛行士に憧れていて、当時の一番のヒーローは毛利衛さんでした。高校生になってから少しカナダに住んでいたのですが、そこで今はなきスペースシャトルの打ち上げを生で見る機会があり、人間がこんなにも凄まじいものを作れるんだという衝撃と感動は、今も強く心に残っています。ただ、日本人が宇宙飛行士になるのは本当に狭き門で、「自分がなれる気は正直しないな」と思っていました。そこで、宇宙に行く側ではなく、ロケットを“作る側”への関心が強くなっていきました。そうした興味の流れがそのまま続いて、気がつけば航空宇宙工学科で研究するところまでたどり着いていました。
大学の航空宇宙工学専攻では、流体力学の研究をしていました。いわゆるマイクロエレクトロニクスというよりは、発電所の大型タービンのような、かなりスケールの大きなテーマを扱っていました。学生時代には、外資系の航空機メーカーのインターンシップなどにもいくつか参加しました。その中で、やはり私は部品ではなく、完成機、つまり航空機そのものを作るメーカーの仕事がしたいと強く思うようになりました。ただ、当時も今もですが、国内には完成機メーカーがほとんどありません。外資メーカーとも話を進める中で、国籍という非常に大きなボトルネックに直面しました。防衛とも密接に関わる産業なので、海外から見れば「東大出身」とはいえ、アジアの一地方大学から出てきた新卒をすぐに採用するわけにはいかない、と。実際には「まずは日本のサプライヤーで20年経験を積んできてほしい」と言われました。正直、「そんなの待っていられるか」と思いましたね。日本に生まれたという理由だけで、その道を諦めざるを得ない。エンジニアとして航空機の完成機を作るという進路は、当時そこで一度諦めることにしました。一方で、日本には技術力も人材もあるのに、そもそもその産業自体が存在しない、あるいは道が閉ざされている分野があるのはなぜなんだろう、という漠然とした疑問が残りました。技術そのものではなく、別のボトルネックがあるのではないか。そうした視点でものごとを俯瞰的に見られる仕事をしてみたいと考えるようになり、経営コンサルティングという選択肢に興味を持ちました。就職活動の中で、マッキンゼーの面接やインターンに参加するうちに、「この人たちはまさにそういう問いを投げかけ続けている人たちだ」と感じ、最終的に入社を決めました。
そういう流れで、結果としてコンサルタントになり、ハイテクセクターを中心に、メーカー企業の支援に多く携わりました。新卒でコンサルタントとして働く中で、多くの人が一度は感じることかもしれませんが、「自分は本当にクライアントに寄り添ったアドバイスができているのだろうか」と疑問を持つようになった時期がありました。自分自身が事業を経営した経験がない中で、論理的には正しいことを言っているし、頭では納得している。でも、本当にこの人たちが困っているポイントはそこなのか、という違和感を覚える場面が少しずつ増えていったんです。そうした中で、どこかで一度、事業会社の立場で実務経験を積みたいという思いが強くなりました。もう一つ考えていたのは、ではそのときに自分が役立てる職種やポジションは何なのか、という点です。当時は20代後半でしたが、経験としてはマネジメントコンサルティングが中心で、現場オペレーションの経験があるわけではありません。その状態で事業会社に入って、本当に現場で価値を出せるのかという不安も正直ありました。そう考えると、比較的マネジメントに近いポジションで、年齢的にもチャレンジできる環境として、自然とスタートアップが選択肢に入ってきました。加えて、かなり率直に言うと、当時はスタートアップへの転職が一つのムーブメントになっていた時期でもありました。私の先輩ではエレファンテックの清水信哉さんや、現在キャディの加藤勇志郎さんなど、スタートアップに飛び込んで「こんなに面白いことができるんだ」という話を聞く機会も多かったんです。そうした背景もあり、「一度スタートアップに挑戦してみよう」と思い、いろいろな会社とお話しするようになりました。正直に言うと、もともとスタートアップに対して特別ななじみや興味があったわけではありません。マッキンゼーにいた頃も、自分が将来スタートアップに身を置くとは、当時はあまり想像していませんでした。本格的に選択肢として意識し始めたのは、実際に転職活動を始めてからです。その過程で、大企業の面談もいくつか受けました。ただ、話をする中で、「自分がここで本当に役に立っている姿があまりイメージできないな」と感じることが多かった。一方で、スタートアップについて調べたり話を聞いたりするうちに、自然と選択肢の一つとして意識するようになっていきました。スタートアップに行くことについて、「リスクが高いのでは」と言われることもありますが、私自身はあまりそうは感じていませんでした。転職を考えている時点で、会社の安定性よりも、「自分がどれだけ役に立つ人材でいられるか」の方が、結果的に職としての安定性につながると思っていたからです。安定かどうかは会社ではなく、自分次第だ、という感覚は当時からずっとありました。
そしてスタートアップの世界に飛び込み、ドローン関連のスタートアップで事業に関わるようになります。航空宇宙工学科出身ということもあり、「飛ぶものをやりたい」という思いが自分の中ではかなり大きかったですね。もう一つは、面接でお会いした方の中に、コンサルティングファーム出身の方が何人かいらっしゃって、この人たちとは比較的コミュニケーションが取りやすそうだな、と感じたことです。コンサルから事業会社に移るとなると、どうしても文化の壁のようなものがあると思っていたので、その意味では自分にとって少し“易しめ”なトランジションができそうだと感じ、転職を決めました。入社当初は事業開発のポジションで、ドローン以外の事業にも関わりながら、会社が事業部制に移行するタイミングで、ドローン事業全体のビジネス側を統括する役割を担うようになりました。結果的に、約2年間そのポジションで事業運営に携わっていました。
その頃から、同じドローン業界で、当時ACSLにいた太田さんとは、業務連携などを通じて関係がありました。TopoLogicを立ち上げる話が具体化したタイミングで、その太田さんから声をかけられました。ある日、「ちょっと六本木の寿司屋に来い」と言われて行ったらTopoLogicに誘われたのですが、「お前、どうせ暇してるんだろ。これやれや」という、いかにも彼らしい言い方でしたね(笑)。話を聞いて、まず直感的に「これは面白いな」と思った、というのが一番大きな決め手でした。加えて、その当時ドローン事業に関わっていたからこそ見えていた現実もありました。日本ではドローン関連企業が上場するなど一定の成功事例は出てきていましたが、グローバルで見たときに、日本が本当に強みを持てる産業なのかという点には、正直なところ疑問を感じていました。特に汎用ドローンの分野では、DJIが初期投資による大量生産と価格競争力を武器に、世界市場の約7割を押さえる状況を作っています。その中で、日本、しかも規制の厳しい日本市場を起点にどう差別化していくのかを考えると、これは相当に厳しい産業だなと、内側から見ていて感じていました。そうした背景もあり、「このタイミングで一度、新しいチャレンジを覗いてみようか」と思えたことが、TopoLogicに関わることを決めた理由です。
中辻先生とも直接お話しする中で、まず感じたのは、技術の差別化が非常に明確であること、そして対象としているマーケットが成長率の高い分野で、ニーズと技術の間に大きなギャップがあるという点でした。事業として見た時に、非常にポテンシャルの高いスタートアップだと感じました。もう一つ大きかったのは、中辻先生のお人柄です。私は工学部出身で、研究成果を産業に実装することが当たり前という環境で研究してきました。一方で、あくまで個人的な先入観ですが、理学部の先生は社会実装からは距離のある研究をされているイメージがありました。しかし中辻先生は、Natureに何本も論文が採択されるような最先端の材料研究を行いながらも、「社会に実装する」ということに強い関心と覚悟を持っておられる。その姿勢に強く感銘を受けましたし、「この人のために働いてみたい」と思えたことが、TopoLogicに参画した一番大きな理由です。
事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?
TopoLogicは、トポロジカル磁性体、特に反強磁性体と呼ばれる材料技術を事業の中核に据えています。トポロジカル物質では、2016年に理論研究がノーベル賞を受賞しています。しかし当時、トポロジカル物質を研究していた先生たちの言葉として、「面白いけど役に立たない」といった言葉が残っているくらい、トポロジカル絶縁体は応用先を見つけるのがなかなか難しい物質でした。その一方で、もともと中辻先生は高温超伝導物質の研究をされていた先生なんですね。高温超伝導物質も、非常に高い温度まで特定のバンド構造を維持するためには、どういう元素の組み合わせがあり得るのか、ということを探る研究です。その意味で、研究のアプローチ自体はかなり近いものがあります。具体的には、第一原理計算、いわゆるバンド構造のシミュレーションを行い、「この原子とこの原子の距離がこのくらいの結晶構造だったらできるよね」「こういう素性だったら、こうなるんじゃないか」と仮説を立てて作ってみる。そして、「あ、ならなかったな」ということも含めて検証していく。そうした研究手法を、トポロジカル物質という分野に応用している、という形です。その結果として、どうしても磁性体や反強磁性体が多くなっているのは、そういった背景が大きいですね。加えて、磁性体であれば応用先が比較的多い、という点もあると思います。トポロジカル磁性体は、従来の磁性体が持つ特性を備えながら、それに加えて「トポロジカル」という名前が示す通り、電子構造、いわゆるバンド構造に、従来とは異なる形状や幾何学的な特性を持っている点が最大の特徴です。こうした特性を持つことで、これまでの物質とは異なる電子の動きや磁気的な振る舞いが現れます。TopoLogicは、その特性を半導体デバイスとして実装している点が大きな特徴になります。そのため、例えばセンサであれば、検知している対象自体は従来と同じであっても、全く異なる物理と機構でセンシングを行うことができます。その結果として、デバイスレベルで明確な差別化を図ることが可能になります。
具体例として、TopoLogicが開発している熱センサがあります。従来の熱センサ、特に熱流束、つまり熱の流れを検知するセンサでは、サーモパイルと呼ばれる、比較的厚みがあり、熱を一度溜め込む必要のある構造が主流でした。そうしなければ、十分な検知ができなかったからです。一方で、TopoLogicは新しい熱電効果である「異常ネルンスト効果」を利用しています。この効果を使うことで、熱を溜め込まなくても熱流を直接センシングできるようになりました。これが、TopoLogicのセンサ技術の大きな特徴の一つです。こうした物理特性を活かしたセンサを起点に、「では、この特性はどのような応用先があり得るのか」ということを、いわゆるプロダクトアウトのアプローチで探索してきました。そういう意味で、最大の特徴は、やはりこの材料そのものが、従来とは全く異なる特性を持っている点にあると思います。トポロジカル物質というのは、ものすごく広い定義なんですよね。いわゆる絶縁体、導体、半導体と同じくらいの広さの定義なので、物質の種類もたくさんありますし、いろいろな素性のものがあります。それによって当然、バンド構造も全く違ってきます。まさに、導体・絶縁体・半導体という分類は、そのバンド構造の違いによって定義されています。導体であれば、いわゆる価電子帯に大きなギャップがないので、電気がどんどん流れます。一方で絶縁体だと、価電子帯がすごく離れていて、バンドギャップが非常に大きいため、電子が飛び出せず、電気は流れません。TopoLogicが扱っている物質は、この価電子帯に特異点を持つような形で接続されている、非常に特殊な状態にあります。つながってもいるし、つながっていないようにも見える、という状態ですね。そのため、半導体のような特性だと思われるかもしれませんが、半導体は正確にはバンドが離れています。TopoLogicの場合は、つながってはいる。なので、基本的にTopoLogicが扱っているのは金属です。皆さんがよく耳にするトポロジカル物質で一番有名なのは、トポロジカル絶縁体だと思います。トポロジカル絶縁体は、まさにその特異なバンド構造が表面にだけ現れていて、表面では電気がどんどん流れます。一方で、中心部ではその接続点が離れてしまうため、電気が流れません。結果として、表面だけが導電性を持ち、内部は絶縁体という、非常に変わった性質を持っています。それに対して、TopoLogicが扱っている材料は、表面と内部に関わらず、同じバンド構造を持っています。そのため、基本的には全体として電気が流れる、いわゆる金属になります。ただし、この特異点があることで、その周辺では電子が非常に変わった動きをします。例えば、TopoLogicの熱センサで用いている異常ネルンスト効果は、熱が加わる、あるいは温度差が生じることで電圧が発生するという現象です。通常の熱電効果では、温度の高い側では電子の運動量が大きくなり、低い側では小さくなるため、電子密度の差が生じ、その結果として電圧が発生します。このとき、温度勾配と電圧が発生する方向は基本的に同じです。しかしTopoLogicの物質では、この特異点が、まるで非常に強力な磁場を発しているかのように振る舞います。すると、フレミングの法則に似た形で、電子の流れが90度曲げられ、温度勾配とは直交する方向に電圧が発生します。つまり、温度差を与えると、その方向とは90度異なる方向に電圧が生まれる。これが最大の特徴です。この現象が、トポロジカル物質特有の異常ネルンスト効果です。この効果を使うことで、これまでとは全く異なる物理原理に基づいた磁気構造のセンサを作ることができます。TopoLogicは、こうした効果を活用したデバイス開発を行っています。
メモリの方は、もう少し複雑になります。実は、厳密に言うと特異点そのものは使っていないんですよ。ただ、その特異点があるということで注目された物質に、マンガンとスズの合金があります。その材料を詳しく調べていくと、実は対称性が破れた反強磁性体だった、ということが分かってきました。そこで、「これって半導体メモリに使えるんじゃないか」という論点が出てきて、今に至っています。発見の発端や、この材料に着目されたきっかけ自体は、まさにその特異点だったのですが、実際に今、特性として使っているのは特異点そのものではありません。そういう、少し変わった経緯があります。TopoLogicの材料は、トポロジカル物質であると同時に反強磁性体で、正確には「ノンコリニア反強磁性体」と呼ばれるものです。これは、対称性が破れている反強磁性体です。通常の強磁性体は、すべてのスピンが同じ方向を向いていて、N極・S極を持つ強い磁場、いわゆる磁石になります。一方で反強磁性体は、原子が並ぶ中で、片方のスピンが上、もう片方が下を向き、それが規則的に並ぶことで、全体として磁性が打ち消し合う物質です。この場合、基本的には対称性が保たれた状態になっています。TopoLogicが扱っているのは反強磁性体ではあるのですが、その中でも対称性が破れているタイプです。イメージとしては、3つの原子――正確には5つなのですが、話を簡単にするために3つとします――が、それぞれ120度ずつ傾いたスピン状態を持ち、全体として相殺されるような構造を取っています。通常の反強磁性体では、スピンをひっくり返しても、少しスライドさせれば同じ状態になる、いわゆる対称性が担保されています。しかしTopoLogicの材料では、例えば三角形の中で、上・左下・右下を向いていたスピン配置をひっくり返すと、下・左上・右上を向く配置になります。これは内向き・外向きのような関係になり、位相をずらしても同じ状態を作ることができません。つまり、対称性が破れているということです。この対称性の破れによって、それぞれの状態を明確に定義できるため、メモリ材料として利用できます。通常の反強磁性体では、極端な話、原子を一つ削って別の場所に持っていっても同じ状態を作れてしまい、状態を定義できません。しかしTopoLogicの材料では、それができない。つまり、「1の状態」と「0の状態」を明確に作ることができる反強磁性体になっています。この点で、ノンコリニア反強磁性体の特性が生きてきます。結果論ではありますが、こうした物質がたまたまトポロジカル物質でもあった、という点が非常に重要です。トポロジカル物質は、スピン構造やバンド構造に特殊な性質を持っているため、このような現象が成立します。そうした特性を活用することで、動作速度が非常に速く、消費電力の低いメモリを実現できる、ということに取り組んでいます。通常のMRAMは、基本的に強磁性体を使います。つまり、強い磁石を使うということです。イメージとしては、黒板に貼り紙をするために使う磁石を思い浮かべていただくと分かりやすいと思いますが、あれにネオジム磁石を使っているようなものですね。そうすると、剥がすのにもすごい力が必要ですし、ひっくり返すのにも大きなトルクが要ります。そのため、MRAMは記録方式の特性上、強い磁石を使うのがこれまでの常識でした。強い磁石を使うということは、それなりのパワーが必要になりますし、反転する速度もそれほど速くはなりません。一方で反強磁性体は、マクロに見ると磁場が打ち消し合っているため、非常に弱い磁石のように振る舞います。ただし、強磁性体と比べると、反転させるのに必要なエネルギーは、一般的に1000分の1程度だと言われています。さらに、反転する速度、つまり周波数も、強磁性体がギガヘルツ帯なのに対して、反強磁性体はテラヘルツ帯で動作するとされており、速度も必要なエネルギーも桁違いに小さい。ただし、反強磁性体はお話しした通り磁性が非常に弱いため、「読む」のがとにかく大変です。そのため、これまで実用化には至っていませんでした。業界的には、「できたら化けるよね。でも多分できないよね」というのが、これまでの常識だったと思います。この点について、TopoLogicは特異点とは全く異なるアプローチで課題を回避しています。どちらかというと、物理というよりもデバイスエンジニアリングの世界です。反強磁性体、特にトポロジカル反強磁性体では、読み出し時に1と0の状態で抵抗値が変わりますが、強磁性体を使った場合のように、抵抗が2倍、3倍と大きく変わるわけではありません。反強磁性体単体では、抵抗変化は1%変わるかどうかというレベルで、電気回路的には1と0の状態がノイズに埋もれてしまい、読み取ることが難しいのです。そこでTopoLogicは、強磁性体の良いところを取り込みつつ、反強磁性体をメインに使う構成を採っています。これにより、動作速度は純粋な反強磁性体よりは多少落ちますが、読み出しは通常の電気回路で十分に可能になります。そうした要素をエンジニアリングとしてうまく組み合わせることで、デバイスとして成立させています。この領域は、中辻先生の物理の世界というよりは、まさにデバイスエンジニアリングの世界ですが、そうした工夫によって、電気回路側を何とか成立させている、というのがTopoLogicのアプローチです。

どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?
まずセンサの話からすると、世の中には温度や熱を検知するセンサが本当に数多くあります。サーミスタや熱電対などが、まさにその代表例ですね。そうした既存のセンサと比べて、TopoLogicが特に優れている点は、高速応答性です。例えば、体温計にミリ秒オーダーの高速応答性が必要かというと、別に必要ありません。TopoLogicはどちらかというと、ミリ秒単位、あるいはそれよりも短い時間スケールで起きる、時間が非常にクリティカルな現象を捉えることに注目しています。その中でも、特に市場が大きいのがバッテリーの熱暴走です。熱暴走は非常に短時間で起きますし、バッテリー自体もサイズが大きい。従来の温度センサだと、「ここが熱いですよ」と検知できた頃には、すでに別の場所が燃えていたり、火を吹いていたりする、ということが起こり得ます。TopoLogicのセンサであれば、そうした現象を予兆として検知できる可能性があります。これが一つ大きな応用先です。また、研究開発用途で使っていただいている企業もあります。例えば、損失測定を行ったり、ラジエーターや冷却系の評価を行ったりといった用途ですね。こうした分野も、まず一つ大きなターゲットになっています。熱センシングの製品は、非常にロングテールな市場だと感じています。用途も産業も環境もすべて異なりますし、同じ熱電対といっても、仕様が少しずつ違う製品がずらっと存在する世界です。そのためTopoLogicも、自動車のバッテリー向けであればこういう仕様、電動工具のバッテリー向けであればこういう仕様、という形で、それぞれのお客様と一緒に開発を進めています。
メモリの方も、「メモリ」と言っても結構幅広いですよね。皆さんが使っているフラッシュメモリ、SSDに入っているものもメモリですし、USBメモリもそうですし、パソコンで「メモリ増設」と言うときのメモリも、すべてメモリです。TopoLogicは、そうした幅広いメモリの中でも、特に高速で動作する必要があり、かつ容量もそこそこ大きくなければならない、という領域を狙うのがよいと考えています。そういったアプリケーションをターゲットにしています。特にSSDなどは、微細化や大容量化がものすごい勢いで進んでいて、ビット単価も非常に安く、価格競争力が強く問われるマーケットです。TopoLogicのようなスタートアップからすると、正直、レッドオーシャンどころか「サメだらけの海」のような世界です。一方で、「高速で動作しなければならないメモリ」というのは、AIを動かすGPUやプロセッサの中に存在しています。いわゆるキャッシュメモリですね。イメージとしては、計算途中の式やデータを一時的に記録するメモリです。このキャッシュメモリは、実は40年近く同じ技術が使われ続けています。その結果、とにかくサイズが大きく、たくさん詰め込めないという課題があります。皆さんのパソコンのSSDには256GBや512GBといった容量が入っていますし、増設するメモリモジュールでも16GBや64GBといったギガバイトオーダーの容量がありますよね。しかし、プロセッサの中に入っているキャッシュメモリは、ものによってはキロバイトオーダー、かなり高性能なGPU向けのものでも100MB程度しか入っていません。容量が極端に小さいんです。これが、特に現在のAI処理では大きな律速要因になっています。TopoLogicの技術では、同等の動作速度を維持しながら、ギガバイト級の容量を詰め込むことが可能になります。そうしたメモリを提供できることで、より大規模なAIを動かせるようになったり、より多くのAI処理を高速に並列実行できるようになります。このような用途は「組み込みメモリ」と呼ばれる領域になります。現在、チップを設計する際には、NVIDIAをはじめとする多くの企業が、さまざまな要素技術メーカーが提供する回路ブロックを、いわばレゴブロックのように組み合わせて設計しています。TopoLogicも、「高速動作で大容量のキャッシュメモリです。容量は32MBから3GBまでラインアップしていますので、ぜひ使ってください」という形で提供するビジネスモデルを展開しています。そうすることで、自分たちで完成品のチップを作り、成熟した市場で巨大企業と正面から戦う必要がなくなります。代わりに、TopoLogicの技術を採用してくれる企業を一社ずつ増やしていく、というアプローチで事業を展開しています。分かりやすい例で言うと、孫正義さんが投資されていたARMがあります。ARMは、計算を行うロジック回路を設計する会社ですが、自社ブランドのチップを一切作っていません。にもかかわらず、現在ではスマートフォン向けチップの9割以上にARMの設計が使われていると言われています。QualcommやMediaTekといった企業のチップにも、ARMが設計した回路が組み込まれており、その結果として非常に高性能なチップが実現されています。TopoLogicとしての一番大きな目標は、まさにARMのような存在になることです。非常に大きな時価総額を持ち、独占禁止法の議論に出るほどの影響力を持つ企業ですが、TopoLogicのアスピレーションは、まさにそこにあります。
TopoLogicとして、この技術を広く普及させていこうと考えたときに、特に重要だと思っているのが、各半導体ファウンドリーが現在通常使っている半導体製造設備を、そのまま使えることです。そこを大前提として、プロセス開発を進めています。新規材料といっても、極端な話、今東京エレクトロンのこういう装置がTSMCで動いていますよね。その中で使われている材料の一つを抜いて、そこにTopoLogicの材料を一つ入れれば、そのままプロセスを流せます、という状態をまず目指して開発しています。そうすれば、製造プロセス自体は変えずに、材料だけを少し変える。その部分のレシピはTopoLogicが担保します、という形になります。そうすることで、最小限の、いわばプロセスリスクで導入できるようにする、という点は、TopoLogicとしても強く意識しています。実際の例として、フラッシュメモリと一口に言っても、用途はかなり幅広いですよね。キオクシアなどが製造しているフラッシュメモリーストレージ、いわゆるSSDもあれば、車載向け半導体や家電向け、いわゆる民生用半導体に組み込まれているフラッシュメモリもあります。こうしたフラッシュメモリのIPを提供している会社は何社かあり、国内でもフローディアなど、いくつかのスタートアップがあります。そうした企業では、少し異なる材料のマスクを一つ入れる、といった工夫をしているケースがあります。そこにはレシピの妙があって、特定の条件下で非常に良い性能が出る、といったものもあります。こうした技術が実際に導入されてきた実績がある、という点は、TopoLogicにとっても非常に参考になります。どういう形でプロセスに組み込まれてきたのか、という点も含めて学びながら進めています。過去の事例があるからこそ、「これはできるだろう」と考えられる。もし「装置を50億円で新たに買わないといけません」と言われたら、その時点で多分シャッターを閉じてしまうと思いますが、そうではない形で導入できる道筋がある、というのは非常に大きいですね。
事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?
センサとメモリで少し状況が異なります。まずセンサの方ですが、すでにさまざまな応用先に向けた個別の応用開発を始めている段階です。例えば、あるお客様が自動車のEV向けに、こういうコントロールユニットにこういう機能を持たせたい、という想定のもとで、共同開発に近い形の計画線表があり、予算も確保された案件が実際に走っている、というフェーズになります。その意味では、ものとしての実証はすでにできていて、いわゆるプロトタイプ品は存在しています。ただし現在は、個別の応用開発を進めている最中で、2年後から3年後くらいに、実際にその応用先での採用が決まったり、製造が始まったりする、というスケジュール感を想定しています。
一方で、半導体メモリの方は、まだもう一段階前のフェーズです。原理的にこの方式で動作する、ということは確認できていますが、量産プロセスでこのチップを作った実績は、まだありません。ファーストチップ自体は、今年の4月に出てくる予定で、これは大学の特殊な装置を使って試作した半導体メモリになります。読み出し・書き込みがきちんとできることは確認できていますが、非常に小さなチップです。そのため、世の中で一般的に使われているウエハを用いた製造は、これからになります。現在は、そのためのプロセスレシピを最終化している段階で、最初のウエハロットが、今週から来週にかけて、いわゆる「プロセスイン」と呼ばれる工程に入り、ウエハ処理が始まる予定です。ここから、試作プロトタイプ品として性能評価を行います。通常の製造プロセスのみを使い、業界標準のルールに則って作った結果として、どういう性能が出るのかを確認します。その上で、次は大容量化したチップを試作し、高速性をさらに追求したプロトタイプにつなげていく、という流れになります。その試作品がそのまま特定の応用先に使われる可能性もありますし、そこから一歩踏み込んで、「では、もう少し◯◯社向けの仕様でこういうメモリを作ってほしい」といった個別案件が走る可能性もあります。そうした流れを踏まえると、2030年から2031年頃に、TopoLogicの技術が採用されたチップが製品として発表される、というタイムラインになるのではないかと考えています。

今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。
2030年頃には、センサの方については、「こういう分野で採用されています」という実績がいくつか出ている状態を目指しています。例えば、自動車分野であったり、製造装置の分野であったり、そういったところですね。いわゆる「Intel Inside」ではないですが、「TopoLogicが入っています」というものが、いくつか出始めている、あるいは出ることが決まっている、という世界観は作れるのではないかと思っています。一方でメモリの方は、2030年というタイミングでは、ちょうど具体的な半導体ファウンドリーやチップメーカーと、共同研究や共同開発を本格的に組み始め、取り組み始めた頃になると思います。応用先として「だいたいこのあたりに入るだろう」という方向性は見えているものの、どの製品に、どの容量で入るかといった具体的な仕様までは、まだ決まっていない、という段階まで持っていければと考えています。2035年頃になると、センサの方は当たり前のように、さまざまな製品に使われている状態になっていると思います。メモリの方も、ハイエンドなプロセッサに入り始めて、量が出てくる。その結果として、「これが入ることで、データセンターの消費電力が3割、4割、5割と減ったよね」といった効果が見えてきて、「この技術は、ARMがスマートフォンの世界で果たしている役割と同じように、欠かせない技術だよね」と言われるような存在になっていたいですね。半導体のコンポーネントやIPの企業は、どうしても一般の方に知られる機会が少ないのですが、それでも「日本にもこういう頑張っている企業があるよね」と認知されるくらいの存在にはなりたいと思っています。上場というスケジュール感で言うと、2030年から2031年頃には、メモリ事業の方でも、少なくとも売上が立つ見通しがある程度見えている状態になると考えています。そのあたりを目安に、IPO、もしくはエグジットを検討していきたいですね。半導体業界は、IPOだけでなくM&Aも非常に活発な分野です。TopoLogicとしては、どこかの大きなグループに入り、開発リソースを一気に増やして爆発的に成長していく、という選択肢もあれば、IPOをして独立系として、さまざまな企業に技術を使っていただく、という選択肢もある。その両方を視野に入れながら、事業を進めていきたいと考えています。
素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?
半導体のプロセスというのは、本当にさまざまな材料が絡んでくる工程の集合体です。現在、TopoLogicはまだ試作の段階なので、正直なところ、かなり粗削りだったり、強引に「とりあえず加工できて、何とか成り立っています」という部分も多くあります。ただ、これが量産フェーズに移行していくとなると、歩留まりを意識しなければならなくなりますし、そうなると多くの工程で許容度が一気に狭くなってきます。場合によっては、新しいプロセス材料を開発しなければならない、というケースも出てくると思っています。特にTopoLogicの材料は、エッチングに少し時間がかかる特性があり、その分レジストに負担をかけやすい材料です。そのため、長時間のミリングにも耐えられるレジスト材料の開発が必要になったり、加工後にさまざまな付着物が残って性能が落ちてしまうため、洗浄剤の選定や開発が非常に重要になったりと、今後さまざまな課題が出てくると考えています。日本は実は半導体の加工材料大国で、多くのプロセス分野において高いシェアを持つ企業がたくさんあります。そうした企業と、どこかのタイミングでプロセスを本当にリファインして、日本発の、唯一無二の技術として広げていく。そのためには、素材メーカーの皆さんを巻き込みながら、エコシステムを作っていくことが必要だと思っています。現時点では、そうした企業の皆さんが本気で目を向けてくださるほどの実績を、まだ十分にお見せできていないのが正直なところです。ただ、それが実現できた暁には、「この技術はすごく良いけれど、うちのレジストがないと作れないんですよ」と言ってもらえるような要素をたくさん生み出したい。そうすることで、日本の半導体産業全体を盛り上げていきたいと考えています。ぜひ、そういう視点で一緒に取り組める企業が増えていけば、とても面白いなと思っています。
ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。
JMTCさんからは、材料系のメーカーさんを多くご紹介いただています。必ずしもすぐに直接協業に至るわけではありませんが、さまざまな企業とお話をさせていただく中で、「こういう材料メーカーさんと対話していかなければいけないんだな」とか、「弊社の事業に、どこかのタイミングで関心を持ってくれそうだな」と感じられる企業さんが何社もいらっしゃいました。そういう意味では、本当に良い繋がりを作っていただいたなと感じています。しかも、それが日本を代表するような化学メーカーさんばかりなので、非常に心強い企業さんが味方についてくださっている、という感覚があります。その点については本当にありがたいですし、将来的には、そうしたご縁の中から出資なども引き出せたらと思っていますので、今後ともご一緒できればと考えています。また、JMTCご自身も、かなり幅広く、かつ非常に魅力的なメーカーになってきている印象があります。毎回お話しするたびに、取り扱われている材料のラインアップが増えていて、「実は気がついたら、半導体のこんなプロセス材料もあります」「こんな面白い特性を持った処理材もあります」といった話が出てくるようになっていますよね。そういうものがあれば、ぜひTopoLogicとしても、プロセスの中で一度使ってみたいと思っています。将来的に、半導体材料という領域に、御社としてどこまで踏み込んでいかれるのかについては、私自身も正確に把握できていない部分がありますが、そうした分野で「これがあるから、こういうことができるんです」という材料や技術が今後たくさん出てくるのであれば、TopoLogicとしてもお力をお借りする場面が、きっと増えてくるのではないかと思っています。
最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。
TopoLogicは、大学の中での物理研究、ほとんどNatureに論文を出すような基礎研究からスタートしています。そこから社会実装に至るまでには少し時間はかかっていますが、今は本当に、社会にインパクトを与えられる形での社会実装を目指して、皆さんのお力をお借りしながら取り組みを進められている状況です。それは、JMTCさんもそうですし、それ以外にも多くの方々からご出資をいただいたり、企業さんをご紹介いただいたりして成り立っています。正直なところ、「他人のふんどしを使っている」と言っていいのか分かりませんが、TopoLogic単独では決してできなかったことが実現できていることに対して、本当に感謝しています。一方で、スタートアップという産業を考えたときに、まさにそこが今後の肝になってくると思っています。日本は産業基盤の裾野が非常に広く、そのポテンシャルは十分にあるにもかかわらず、スタートアップと大企業の連携がなかなか進まず、大きなスタートアップが生まれにくい、という課題もあります。ただ、そこをうまく乗り越えることができれば、日本の産業基盤をレバレッジして、非常に大きなディープテック企業を生み出せる素地は間違いなくあると思っています。ぜひ、その流れを一緒に盛り上げていきたいですし、そのための良い事例を、TopoLogic自身が提示できたらと思っています。ぜひ皆さんと一緒に、この流れを盛り上げていければと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。

PROFILEプロフィール
COMPANY DATA企業情報
- 法人名
- TopoLogic株式会社
- 設立
- 2021年7月
- 本店所在地
- 東京都文京区
- 事業内容
- トポロジカル物質の研究、開発、設計、製造および販売
- ウェブサイト
- https://www.topologic.jp/
-
CO2に新価値を、
CO2で未来をCarbon Xtract株式会社 -
光を使って世界を照らす
新材料を創造する株式会社illuminus -
ミクロな技術で
人類と地球のミライを織りなすFiberCraze株式会社 -
独自のbio-inspired技術により
サステナブル社会を共創するAZUL Energy株式会社 -
有機ハイドライドを使った
水素貯蔵・供給システム株式会社フレイン・エナジー -
低消費電力コンピューティングを
単分子誘電体で実現する株式会社マテリアルゲート -
代替フッ素技術に基づく
高機能材料を提供ユニケム株式会社 -
振電相互作用密度理論により
機能性分子をピンポイント設計株式会社MOLFEX -
ソフトエレクトロニクス分野の
イノベーションハブとなるOPERA Solutions株式会社 -
モノの機能を自在に設計可能な
社会を実現するNature Architects株式会社 -
素材のプラットフォームを創出し
素材の流動性と循環性を最大化Sotas株式会社 -
世界をリードする単結晶技術で
新材料・新技術を迅速に社会実装株式会社C&A -
身の回りに溢れる未利用熱を
次世代のエネルギー源へ株式会社GCEインスティチュート -
DualPore™シリカで
微量物質の高効率吸着を実現株式会社ディーピーエス -
藻類の研究開発で
人々と地球の未来に貢献する株式会社アルガルバイオ -
新規機能性可溶性ポリイミドで
次世代産業分野に貢献するウィンゴーテクノロジー株式会社 -
ヒトと農作物と環境に
優しい農薬を株式会社アグロデザイン・スタジオ -
多能性®中間膜で
世界をリノベートする株式会社Gaianixx