INTERVIEW

ソフトエレクトロニクス分野の
イノベーションハブとなる

OPERA Solutions株式会社
代表取締役
原田 健太郎
ソフトエレクトロニクス分野の<br>イノベーションハブとなる
OPERA Solutions株式会社は、次世代ソフトエレクトロニクスデバイスのモデルを構築し、信頼性に優れた製品評価プラットフォームを顧客に提供する会社です。同社の事業内容と将来展望について、代表取締役の原田健太郎氏にお話を伺いました。(2025年1月24日訪問)

貴社の事業内容を教えてください。

OPERA Solutionsでは、有機エレクトロニクスの分野において、企業様から評価、試作、検証といった研究開発の委託を受けて、結果をお返しするサービスをしています。

会社の設立経緯を教えてください。

文部科学省の「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」という補助事業があったのですが、2016年に九州大学と福岡県がコラボレーションして新しい価値のあるエコシステムを作り出そうというプロジェクトも採択されました。このプロジェクトでは、事業プロデュースチームというものが設置されまして、その事業プロデューサーという統括する役割を私は任されました。プロジェクトの活動としてスタートアップも育てていこうという取り組みも含まれていたのですが、その中の一つにハイバリュー(高付加価値)な受託研究ソリューションを提供するというプロジェクトがありました。そのプロジェクトの出口として、プロジェクトが終了するタイミングで2020年にOPERA Solutionsを設立し、私が代表取締役に就任しました。

原田社長のご経歴と起業にいたった経緯をお聞かせください。

私が生まれ育ったのは東京ですが、小学三年生からは福岡に住んでいたので、OPERA Solutionsが拠点とする福岡は私の地元でもあります。個人的な話にはなりますが、私の経歴は、高校生の時に読んだ一冊の小説から大きな影響を受けています。その小説は、ジャズのトランペット奏者がロシアからヨーロッパの各国を放浪して、最後にアメリカに向けた船に乗ったところで暗闇の中に光が見えたみたいなところで終わるといった内容ですが、なぜかその本に感銘を受けて、自分もこういう生き方をしたいと思いました。それでギターを始めたのですが、自分に才能が無いことは早々に分かりまして(笑)、学問ならなんとか食べてはいけるかなと思いました。大学で量子力学などにすごく興味をもち、そんな学際領域の道があるということに目覚めまして、物理の研究開発で世界をまたにかけるような仕事がしたいという思いが強くなったのが20代の頃です。
社会人としての第一歩としてNTTに勤めたのですが、大企業の中でプロジェクトの動かし方や人の説得の仕方などを学べたことは、今の自分にとっても基盤になっていると思います。一方で、役員クラスにまでなれば別ですが、それまでは本質的なところで自分が右に行きたいか、左に行きたいかを、自分の意思で決定できない中で我慢しなければならないというのが、どうしても自分の中ではイメージできませんでした。そういったわけで、一つの会社に定年までいるよりは、そもそも先の小説のように海外を転々とする生活に憧れていたということもあって、30歳の時にスパッと退職して小さなスタートアップで働いてみたりしました。そうした中で、やはり自分一人の力で生きていくためには、客観的に見える自分の価値が必要だと思い、ドクターを取ろうと考えました。ドクターも日本で取るのではなく海外で取りたいと思い、30代でドイツに行ってドクターをとりました。
ドクター期間とその後ポスドクとして、ドイツの有機EL(OLED)の物理の研究をする部門で7年間ほど研究員として働きました。その時に二つのスタートアップが同じ研究グループからできました。一社はNovaledという有機EL材料のスタートアップで、2001年に設立され現在はSamsungに買収されています。もう一社はHeliatekという有機薄膜太陽電池のスタートアップで2006年に設立されました。自分より先に研究していた人たちがCEOやCTOになるのを見て、こういったスタートアップというものは自分にとっても一つの道かなという漠然としたイメージは持ちました。ただ、その時は何かやりたいくらいの漠然とした気持ちで、自分でどういう会社をやるんだといった具体的なプランまでは正直思いつかなかったです。漠然と、何か日本と世界を研究開発で繋ぐような仕事がしたいとは思っていましたが、具体的にイメージすることはできませんでした。
これらのドイツのスタートアップに自分も入るという選択肢もあったのですが、もう少し違うこともやってみたいなという思いもある中で、たまたま現在もお世話になっている九州大学の安達千波矢先生とお知り合いになる機会がありました。旅行からの帰りにドレスデン空港から市内に向かう電車に乗っていたら、車掌による検札で困っている日本人がいたので助け舟を出してあげたところ、それが安達先生でした。ちょうど翌週に私も参加を予定していた学会があり、安達先生もそれに参加するためにいらっしゃっていたわけです。当時から安達先生は有名でしたので驚きましたが、それが先生との出会いです。その学会期間中に食事する機会がありまして、「私も育ちが福岡で、いずれ地元の九州に帰る選択肢もあると思っているので、何か仕事があったらオファーください」と冗談半分でお話ししたところ、二カ月後にメールがあってNEDOのプロジェクトで枠があるけどどうでしょうかというお誘いをいただきました。
そうした経緯で日本に帰ってきて九州大学で働いた後、外資系企業で働くなど色々な仕事を経験しました。その間もずっと、研究開発という軸を持ちつつ、日本の技術を海外に伝えたり、海外の技術を日本に持ってきたり、日本と海外を橋渡しするようなことを本業にできたらいいなと思ってきました。そんな中で、再び安達先生からのお誘いで、地域イノベーション・エコシステム形成プログラムに関わることになりました。
地域イノベーション・エコシステム形成プログラムが始まったタイミングでは、私は東京にいたのですが、安達先生から九州大学と福岡県で新しくプログラムが立ち上がるところで、事業プロデューサーのポジションが空いているけどどうかというお話がありました。私も、いずれは自分もスタートアップに関わるような仕事がしたいというお話をして、ひょっとしてマッチしているのではないかと思って参加することにしました。
地域イノベーション・エコシステム形成プログラムは、その建て付けを見た時に、企業とアカデミの架け橋ということと、あと海外との研究開発の交流も含めてグローバル化しようというコンセプトがありましたので、プロジェクトがスタートした直後から、自分のやりたいことに合致するなという予感はありました。全体では5年間のプログラムでして、最初1~2年はビジネスにできるという確信はなかったですが、3年目になると受託収益が上がり始めて、これはビジネスにできるという確信を持つことができ、プログラムの終了とともに起業することにしました。

事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?

OPERA Solutionsには現在私も入れて3人の技術者がいますが、全員が有機エレクトロニクスの専門家集団です。その技術的バックグラウンドをもとに、有機半導体のデバイス作りと半導体のプロセス技術をハイブリッドさせられるところがOPERA Solutionsの強みです。単純に有機ELのデバイスを作るだけであれば、対応できるところはたくさんあるのですが、そこに半導体のプロセス工程を組み込むことができるところはありません。さらにそうした技術をもとに、顧客企業のデマンドに応えられる研究開発のサイクルを回して結果を出すことができる遂行能力が技術的な強みです。

どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?

まず受託研究のターゲット市場の規模ですが、OECDの統計によると世界全体でみた企業による研究開発投資は百兆円規模あり、特に我々が関与できるエレクトロニクス部門の研究開発投資は18兆円あります。海外の企業の場合、特にIT系の大企業は自社でファシリティーを全て持たずに、ファブレスで外部に研究開発を委託することが多いです。そして、下町ロケットの例などがわかりやすいと思いますが、日本の企業はたとえあまり報酬が高くなくても、スタッフ一人一人が自分のやりがいのために、ものすごくいい仕事をしてくれるということを海外の人は知っています。そのため、研究開発資金を潤沢に持っている海外の企業からすると、日本の研究開発力をうまく使いたいと思いつつ、細々した委託先を自分で全部見つけるのも大変なので、司令塔の立場に立つOPERA Solutionsに研究開発を委託して、そこから日本国内の各社に外注して試作品を作ったりすることに魅力を感じてもらっています。また、日本国内の顧客企業でも、エレクトロニクスメーカー様の多くは自社クローズで研究開発をやりたがる傾向がありますが、自動車メーカー様は意外と自社にない新しい事業や技術を開発したい時は外部に委託することがよくあります。こうしたエレクトロニクスやオートモーティブの分野で、新規事業開発に積極的な企業の開発部門がOPERA Solutionsのターゲット顧客となります。
製品のターゲットとしては、向こう二年ぐらいはマイクロOLEDに注力します。マイクロOLEDはヘッドマウントディスプレイやARグラスなどに必須と言え、大きな研究開発投資をしてくれるITビックカンパニーが必ず興味を示すところなので、大きな受託収入が期待できます。それ以外では、脈拍センサーなどに使うPPG(Photoplethysmography;光電式容積脈波記録法)センサーもターゲットと考えています。これはペロブスカイト太陽電池と構造は似ていて、マイクロOLEDで培ったハイブリッドな半導体技術を受光素子に活用して、今までにないフレキシブルな形のPPGセンサーなどの応用が期待できます。

試作デバイスの一例

事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?

売上は初年度から立っており、右肩上がりに増えています。とりあえず会社を軌道に乗せるフェーズ1は終わったところで、今はフェーズ2として、売上は保ちつつ会社の知名度と客観的に見える価値を高めていきたいと考えています。これまでは受託研究ということで表に出ない裏稼業としてやってきましたが、今後はお客さんともご相談しながら、共同研究の成果を両者でプレスリリースしたり、学会で発表したりするようなことをしていきたいです。また、共同開発の中で、一部については弊社にも知的財産が発生するような形に持っていければと思っています。
そのためにも、これまでは私自身の属人的な能力で稼いできたところもあるのですが、さらにブレーンとなる人を増やしていって、違うスタイルの受託開発を獲得して会社の規模を大きくしていきたいと考えています。その第一歩として、2024年8月に米沢に東日本R&D Labを開設して、有機EL開発および製造のエキスパートに入ってもらいました。さらなる会社の発展に向けて、ブレーンとなる人材を増やしていきたいと考えています。
また国内の委託先については、大学や企業など7~8ヶ所にお願いをしています。日本国内には半導体プロセスの工程受託を受けてくれるファンドリーサービスのような中堅企業は多くあります。ただし、それぞれの会社が持っている設備やエキスパートが異なって得意な分野が違うので、それを使い分けながら顧客企業のデマンドに応えるために必要なステップを組み上げることができるのがOPERA Solutionsの強みです。

今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。

OPERA Solutionsは通常のスタートアップとはスタイルが違い、最初から強い大学の知財があったわけではありませんが、一方で最初から売上があって地道に力をつけてきました。これから知名度や会社独自の知財を蓄えた上で、どこかから投資も受けながら、マイクロOLEDやセンサーなどの絶対売れる新しいアプリケーションが見つかって、その生産を司令塔的な会社として行うフェーズに入れればと思っています。ただ、準備するフェーズも考えると、そこまで辿り着くには10年ほどかかるでしょうから、私というよりは次にバトンタッチする世代の経営者が決めることになるとは思います。一方で、i³-opera(アイキューブオペラ;有機光エレクトロニクス実用化開発センター)をサポートする形で、オープンイノベーションのハブ機能は残したいと願っています。

素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?

OPERA Solutionsでは、素材メーカー様の開発品の価値を検証することができます。開発品の性能を評価したり、あるいは実際にデバイスを作って特性を測ったりすることができます。さらに戦略的な形としては、素材メーカー様が持っている材料と、OPERA Solutionsのデバイスを作る能力をかけあわせて新しいアプリケーションを開拓するような、戦略的な新規事業開発をしたいです。まずは、最初は簡単な評価サービスなどから信頼関係を構築しながら、だんだんとお互いの技術に対する理解を深めていって、そうするとこういうことができるのではないかといった話に発展していければと思っています。

ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。

ウェビナーに加えて、昨年9月に開催していただいたトークセッションで、ポスターセッションで発表する機会をいただいたことは非常にありがたかったです。聞くだけではなくて、こちらからも発信できるということは、とてもありがたいです。今後も是非続けていただきたいですし、私もできる限り参加してアピールの場にさせていただきたいと思います。

最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。

特に素材メーカーの方に向けては、将来的には素材メーカー様の強みとOPERA Solutionsのデバイス作りの経験と強みを活かして、きっと今までにないアプリケーションや、今までにない切り口の製品ができるはずだと思っています。パズルが組み合わさって、それを見つけ出すまでには時間がかかると思いますが、やっていくうちにそういう組み合わせが出来ることが絶対にあると思います。是非、まずは小さな案件でもいいので、材料評価やデバイス試作のご相談をいただいて、そこから関係を築いていければと思います。

右:原田社長、左:JMTC浦田
※この記事は日本材料技研株式会社が運営するJMTCケミカル&マテリアルズ・スタートアップ・ウェビナーに過去ご登壇いただいた企業に対するインタビューです。

PROFILEプロフィール

原田 健太郎
OPERA Solutions株式会社代表取締役
ドレスデン工科大学にて博士課程(数理学部物理学科)修了後、ドレスデン工科大学、九州大学、ユニバーサル・ディスプレイ、アイクストロンなどを経て、2020年11月にOPERA Solutions株式会社を設立し、代表取締役に就任。

COMPANY DATA企業情報

法人名
OPERA Solutions株式会社
設立
2020年11月
本店所在地
福岡県福岡市
事業内容
新しいハイブリッドエレクトロニクスのモデル構築と試作、信頼性評価サービスの提供ならびに技術革新の支援
ウェブサイト
https://www.opera-solutions.com/
インタビュー掲載日:2025年02月01日
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