INTERVIEW

CO2に新価値を、
CO2で未来を

Carbon Xtract株式会社
代表取締役社長
森山 哲雄
CO2に新価値を、CO2で未来を
Carbon Xtract株式会社は、九州大学が長らく研究開発を進めてきたナノレベルの薄いガス分離膜を用いたDAC技術の社会実装に取り組んでいる企業です。同社の事業内容と将来展望について、代表取締役社長の森山哲雄氏にお話を伺いました。(2026年2月13日訪問)

貴社の事業内容を教えてください。

Carbon Xtractでは、九州大学・カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の藤川茂紀主幹教授が発明したCO2ガス分離膜の技術を基盤として、コア技術である膜モジュールや、DAC(Direct Air Capture:直接空気回収技術)装置の開発・量産化・社会実装を目指しています。

会社の設立経緯を教えてください。

Carbon Xtractは2023年5月に設立しました。もともとは双日株式会社と九州大学が中心となって立ち上げた会社です。設立の経緯としては、双方に異なるニーズがあったことが背景にあります。
まず九州大学側について、藤川主幹教授が当社の基盤技術であるCO2ガス分離膜の研究開発を長年行ってこられ、2020年に国のムーンショット型研究開発事業に採択されています。このムーンショット型研究開発事業では、最終的な研究の出口として社会実装が求められており、そのため企業との連携を非常に重要視していました。藤川主幹教授ご自身も、さまざまな企業と直接コミュニケーションを取られていたと聞いています。当社の膜技術、すなわち小型CO2回収技術では、回収したCO2を単に埋めるのではなく、利活用していくことが重要です。その観点から、あらゆる用途に横断的に対応できるパートナーはどこかを藤川主幹教授が検討された結果、多様な事業を展開している総合商社が適しているのではないかと考えられました。大手商社各社と議論を進める中で、最終的に双日にたどり着いたという経緯があります。
一方、双日側にもニーズがありました。実は私自身、もともと双日の石炭や金属などを扱う部門の新規事業開発チームに所属し、新たな事業の柱を模索していました。その中で、脱炭素、水素、CO2といった分野で新たな事業を立ち上げたいという方針のもと、企業だけでなく、大学が保有するシーズ技術の探索も進めました。その過程で、九州大学との接点が生まれ、双方のニーズが合致したことでディスカッションが始まりました。 当初は、いわゆる技術組合のような形でコンソーシアムを組成する案もありました。しかし、その形では知的財産の帰属や権利関係の整理に時間がかかり、前に進みにくいことが分かってきました。そこで、会社を設立し、知財をその会社に集約することで、量産や商業化に向けてどこと組むべきかを柔軟に検討できる体制を整えた方がよいという判断になりました。その結果として、Carbon Xtractを設立するに至った、というのが経緯です。

森山社長のご経歴と起業にいたった経緯をお聞かせください。

私はもともと双日の中で、金属資源を扱うビジネスに携わり、双日の出資先である海外の鉱山会社の投資管理やレアメタルの国内向け輸入トレード商売を担当していました。レアメタルにはさまざまな用途の可能性があります。そこで大学の先生方やメーカーのR&D部門に積極的にアクセスし、「将来的にこういう用途があるのではないか」という情報を集め、それを海外の鉱山サプライヤーに共有しながら、「こうした用途に投資しないか」と提案することもしていました。もともと新規開拓が好きだったのだと思います。そうした動きを見ていた当時の上司から新規事業開拓チームへの異動を勧められました。そこでマネージャーを務めていた際、部下から今回の案件の話が上がってきました。それが会社設立へとつながっていきます。
実際、最初に九州大学の藤川主幹教授の技術について聞いたときは、正直なところ「これは相当にチャレンジングだろうな」と感じました。シード段階に近い素材技術がもとになっているだけでなく、DAC市場自体が未成熟であったため、社会実装には相当な時間がかかる。商社が求める時間軸の中でマネタイズするには相当厳しいテーマだというのが率直な印象でした。とはいえ、藤川主幹教授という人間に強い魅力を感じていましたし、彼の夢を実現するには覚悟を決めるしかないと思うようになりました。不思議と逃げたいという気持ちは湧かず、自分自身も深くコミットしていきました。双日社内を説得する事、その上で九州大学に合意を得る事、設立に向けた交渉を行っていた2022年は、コロナも完全に終息していない時期でしたので、東京と福岡を頻繁に往復する日々は苦労の連続でしたが、結果として、2023年の春先に関係者の合意を得るに至りました。

事業の基盤となる技術はどのようなものでしょうか?

Carbon Xtractの技術の中核は、世界トップのCO2ガス透過性を持つナノレベルの薄膜を用いた「膜分離型DAC技術」です。従来は大気中の低濃度CO2(約0.04〜0.05%)を膜分離で回収することは難しいとされてきましたが、藤川主幹教授が世界で初めて成功させました。
CO2をはじめとする温室効果ガスは、いったん放出されると非常に長い期間大気中に留まります。つまり、化石燃料の使用が急増した産業革命以降、生態系による吸収量を超えるCO2の排出が積み重なった結果が、現在に至るまでの気温上昇を引き起こして来たと言われています。そのため、地球温暖化を解決していくためには、新たなCO2の排出を限りなくゼロにするだけでは不十分で、これまで排出されて大気中に漂っているCO2を直接除去していく必要があります。その中で、ネガティブエミッションテクノロジーと呼ばれる大気中からCO2を除去する技術は複数ありますが、多くは自然由来の方法です。しかし、より高い効率性や低コスト化を目指すのであれば、化学の力を活用して技術を発展させていくのが有効だと考えられています。その一つがDACです。
一般的なDACはプラントサイズの大規模設備が中心です。しかし大規模化すると、設備投資やコストが非常に大きくなり、設置場所の制約も大きくなります。大規模・集約型のモデルは今後も広がっていくとは思いますが、先ほど申し上げたようなデメリットも多くあります。そこで我々は、異なるアプローチを取っています。当社の独自技術を用いれば、装置を小型化することが可能です。そのため、僻地に大規模設備を設置するのではなく、都市の中に小型分散型のCO2回収装置を配置することができます。大規模DACでは回収したCO2を地下に埋める選択肢が一般的ですが、我々は都市内に設置するからこそ、都市内でのCO2ニーズに応じた利活用ができると考えています。つまり、回収して終わりではなく、都市内で循環させる。炭素循環社会を実現することが、我々の最終ゴールです。
CO2回収技術は、様々存在しますが、当社は膜分離法を採用しています。その最大のメリットは、システムを非常に単純化できる点にあります。特殊な化学溶液を用いたり、高い熱エネルギーを必要としたりするため、システムが複雑化しがちです。その結果、プラントエンジニアリング中心の大規模設備になっていきます。一方、膜分離の場合は、空気の流れを作り、その間に膜を配置することで、CO2のみを選択的に分離できます。仕組みは非常にシンプルで、エアポンプ・電気・膜の3つがあればCO2を分離できる仕組みです。そのため、スケーラブルな装置設計が可能になります。小型のDACを装置化する事で、多様な需要を創出していくというのが当社の基本的な考え方です。

どのような市場/アプリケーションをターゲットとされていくのでしょうか?

前述のとおり、様々な用途が考えられますが、一例として農業分野(施設園芸)とビル空調分野をあげさせていただきます。先ず、農業分野は、「分散型でCO2を直接利用できる」市場であり、小型DACとの親和性が高い領域です。
農業は、環境価値の観点だけでなく、社会的ニーズにもアプローチできる領域です。現在、農業分野では高齢化が進んでおり、向こう20年間で農家の数が4分の1まで減ると言われています。その中で重要なのは、やはり一人当たりの収量を上げていくことです。その観点で、CO2は一つの注目分野です。CO2と水で光合成が起き、そこで糖ができ、それが成長促進につながります。例えばビニールハウス内のCO2濃度を適度に高めれば、トマトやイチゴであれば2~3割程度収穫量が上がると言われています。オランダなどの農業先進国では、CO2施用は当たり前のように行われていますが、日本での普及が限定的です。これは市場で販売されているCO2ガスボンベが高価で扱いにくいという課題があります。また、炭酸ガスをボンベではなく供給する場合、ビニールハウスの横で灯油やLPGなどの化石燃料を燃やし、その排ガスをハウス内に入れる形が一般的です。そのため、国としても推奨しにくい状況です。そこで我々は、大気中からCO2を回収し、それを野菜に使ってもらうことで、環境に貢献するだけでなく、農家の収穫量と収益の向上につなげられるのではないかという仮説のもと、取り組んでいます。
一方で、ビル空調向けにDACを導入する取り組みは建築業界の企業が協業パートナーになります。我々の最終的な出口の一つは、小型分散型のDAC装置を都市内に分散配置し、都市全体でメガトン級のCO2を回収することです。一方で、DAC装置を単独で都市内に多数設置するのは現実的ではありません。そこで既存のシステムやアセットの中に融合させたいと考えてビル空調システムにインストールする案に至りました。ビルから回収したCO2は、ビル内で循環利用していく事を考えています。都市型農業や飲料などに使うだけでなく、CO2をメタンに変えるなどのCCU技術にも注目しています。CCUによる本格的なCO2転換はまだ先の世界ですが、万博期間中には九州大学主導で、膜DACで回収したCO2をメタン化し都市ガス代替にする技術実証まで行いました。実装には時間がかかりますが、最終的な将来像としてはそこを見据えています。

事業化に向けて現在どの程度まで進捗されているのでしょうか?

現在は実証フェーズから商業化準備フェーズへの移行段階にあります。農業分野では2拠点での実証(PoC)を実施しており、ビル空調分野では東京都の複数年プロジェクトに採択され、2024年から実証を開始しています。また、膜の量産プロセスの確立にも取り組んでいます。
事業化に向けて重要なのは、やはりユーザー側の視点です。小型のCO2分散回収装置を開発しても、「それを何に使えるのか」という問いに答えられなければ意味がありません。そのため、ポテンシャルのある需要家に直接アクセスし、どのようなスペックで、どのような用途で、どのような価格であれば受け入れられるのかを丁寧にヒアリングしながら、ユーザーに最適化した装置開発を進めています。

今後の事業展開に向けた展望についてお聞かせください。

事業面で申し上げると、設立後の、2024年・2025年は農業向け装置の開発に取り組み、基礎実証を行いました。ビル空調向けも2025年に基礎実証を行っています。2026年以降は、スケールアップ実証に進む計画です。その後、できる限り早いタイミングで量産フェーズに入り、しっかりと収益を上げている状態に持っていきたいと考えています。
会社としては、福岡を拠点としている点も重要です。九州出身で、これまで東京や大阪などの大手企業やメーカーで活躍されてきた方が、最後は福岡に戻り、地元に貢献したいと考えるケースは少なくありません。そうしたUターン人材の受け皿となり、特にシニア層のエンジニアの方々とともに、脱炭素という社会課題に対するソリューションをつくる会社にしたいと考えています。もちろん、大企業で長年活躍されてきた方々は、確立した考え方や組織文化をお持ちのことも多く、組織づくりは簡単ではありません。ただ、うまく力を発揮していただければ、非常に大きな戦力になると確信しています。そうした人材が活躍できる会社を目指したいと考えています。

素材化学関連のメーカーや商社との協業に、どのようなことを期待されますか?

まず素材の分野に関しては、特にクローズドに進めるつもりはありません。良い材料があれば積極的に試していきたいと考えています。これは九州大学も同様で、さまざまな可能性を模索しています。ぜひ多くの企業の皆さまとお話しさせていただきたいと思っています。膜に関しては、開発が止まることはないと考えています。用途は多岐にわたりますので、それぞれの用途に適した膜のレシピがあるはずです。また、膜の性能が向上すればするほど、装置全体のコストも下げることができます。その意味でも、材料開発は非常に重要です。ぜひさまざまな企業と議論を重ねていきたいと考えています。
ユーザーという立場での素材化学メーカーとの協業については、工場やオフィスにおける脱炭素ソリューションの一つとしてご検討いただけるのではないかと思っています。ぜひお話しさせていただきたいと考えています。

ウェビナーへの参加も含めて、日本材料技研(JMTC)とのコラボレーションについて、コメントがあればお願いします。

先日のJMTC10周年記念パーティーにもご招待いただき、さまざまな企業とのコラボレーション事例についてお話を伺い、大変刺激を受けました。実は、当社の膜量産プロセスのパートナーの一社に東京応化工業さんがいらっしゃいます。パーティーでも種市社長がご挨拶されていたと記憶していますが、御社が多くの企業をつなぐハブとして機能されていることを改めて実感しました。ぜひ今後も、さまざまな企業をご紹介いただくハブ役としてご支援いただければ大変心強く感じています。また、御社ご自身も知財や材料技術に関する研究を積極的に進められていると伺っています。当社としては、まだ気づけていない視点や技術的な可能性も多くあると思っています。そうした中で、「こういう観点があるのではないか」といった技術的アドバイスやご支援をいただけると、非常に心強いと感じました。パーティーでのお話を伺いながら、さまざまな形でご一緒できる可能性があるのではないかと思いました。

最後に、このインタビューページをご覧になる方に向けて、
メッセージをお願いします。

日本企業の製品について「世界トップの」という言葉が使われる機会は、最近少なくなってきているのではないでしょうか。しかし、私たちの膜技術は、CO2のガス透過性という点において圧倒的であり、世界最高水準にあります。こうした日本発の世界トップのガス透過性を持つ素材技術を、しっかりと社会実装し、世界に展開していくことが、私たちの最終的なゴールです。何らかの形でご協力の可能性がありましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。また、個人のエンジニアの皆さまにもお伝えしたいのですが、私たちと一緒に挑戦したいという方は、いつでも募集しています。ぜひお声がけいただければと思います。

※この記事は日本材料技研株式会社が運営するJMTCケミカル&マテリアルズ・スタートアップ・ウェビナーに過去ご登壇いただいた企業に対するインタビューです。

PROFILEプロフィール

森山 哲雄
Carbon Xtract株式会社代表取締役社長
2009年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科(修士)卒業。同年4月に双日株式会社へ入社。情報システム、金属資源事業(投資管理・トレード・新規開拓)などに従事したのち、脱炭素に関する新規事業開発部隊のマネージャーを担い、九州大学等と共にCarbon Xtract株式会社を設立。2023年6月代表取締役社長に就任。

COMPANY DATA企業情報

法人名
Carbon Xtract株式会社
設立
2023年5月
本店所在地
福岡県福岡市(東京都千代田区)
事業内容
分離ナノ膜を用いて大気からCO2を選択的に回収する技術を活用した装置・製品の開発・販売
ウェブサイト
https://c-xtract.com/
インタビュー掲載日:2026年03月09日
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